寺嶋:はい。私は、考えてみると、小学校から中学校、高校とやっぱり理科がすごく好きだったんです。もちろん生物も好きだったんですが、物理と化学がすごく面白くて、大学に入って何をしようかなあと思ったときに、物理か化学かなと思いました。その当時ちょうど、さきほど言われていた遺伝子工学が発達して、DNAを変えることができるという技術が出てきたところで、それもすごく面白いと思いました。数学も面白いかなと思ったことがちらっとあるんですが、さきほどの話と違って、一番最初の授業でこれはあかんなと思いました(笑)。それで、物理にするか、化学にするか、生物にするかとずいぶん迷ったんですが、化学に入るきっかけとなったのは、なんでしょうね。高校時代だったら化学というと有機化学で、分子を切ったり貼ったりするのがメインだったと思うんですけど、大学に入って量子力学という存在を知って、ああ、分子や電子の世界ってニュートン力学とすごく違うんだなと、すごくびっくりした記憶があります。そこで初めて「あ、こういうのを使って化学というものができるんだな」と。つまり、有機化学とは違った物理化学というものの存在を多分初めて明確に知って、それが非常にフレッシュで、惹かれた原因だと思います。それを知って化学専攻に入って、物理的な研究ということで物理化学の研究室に入ったというのがもともとだと思うんです。それで、レーザーを作ったり、レーザーの光を使って電子励起状態の研究をしていたんですが、そういうのをずっと研究しているうちにようやくそのテクニック及び理論がかなり蓄積されてきました。それで、10年ちょっと前くらいに、これくらいになったら大きな巨大分子である生命にもチャレンジできるんじゃないかなと思ったのが、今、生物物理化学というところをやっている理由です。大学に入った時は、物理、化学、生物、どれをしようかなと思ってすごく迷って、どれもけっこう勉強していたのですが、今になってようやくその3つが融合できたかなという感じです。入学した時に持っている意識というのはけっこう後の方まで影響するもんだなと思っています。
三輪:やっぱりその、理学部に数学から、物理から、化学から、生物から、いろんな人が一緒にいたということが、非常に。
寺嶋:そうですね。もちろんそうです。だから京大を選んだのも、やっぱりひとつはそれで。理学部として学生を取って、学科としては取ってないというところが、すごく良かったですね。
高橋:私が高校の頃は、やっぱり同じように物理とか数学に興味がありました。僕の時は高校でも量子力学がありました。高校の教科書で、いろんな人がいろんな考えをして実験で確かめながら量子力学というものを作り上げていったと書いてあって、そういうのが面白いなと思いました。高校時代は、ブルーバックスとかそういう本を読んだりもしていて、物理とか数学に興味を持って京大の理学部に来ました。入ってからはやっぱり物理とか数学、特に量子力学に興味があったのでそういうのを中心に勉強していました。講義ももちろん出てたんですけど、朝永先生の教科書の『量子力学(Ⅰ)』『量子力学(Ⅱ)』とか、あと、『スピンはめぐる』とかいうもうちょっと教科書的じゃない本を読んでいた記憶があります。具体的にこの量子光学の分野に入ったきっかけは、私の恩師となる端先生という方が講義で「物理っていろんな分野があって、多様性っていうのもひとつのキーワードですけど、物質は、私はどうでもいいんだ。私は現象に興味がある」とおっしゃいました。そういう物理もあるんだな、そういう考え方もあるんだなっていうので、そういうのを面白いと思ってこの分野に入りました。物質の多様性っていうのにはちょっとついていけないなと思っていたところがあるので、現象論として捉えて研究する分野っていうのに心動かされました。まさに量子光学の発展的なやつというのは、個々の多様性というのはそんなに重要じゃなくて、量子力学がどう発現するかとかいう本質的なことを研究する分野です。そういうのを今やっています。
寺嶋:それはけっこう、物理と化学とで違うところですよね。
高橋:そうですね。
寺嶋:化学は、その物質を大切にしてやりますからね。特に生物なんて、個々をやりますからね。
長谷:まあそうですね。でも、生物ももう一方では還元論っていうかね、一般論を求めることも…。
寺嶋:いつもその生物と物理を一緒にやってて、狭間に立っています。物理の方からは一般論はどうなるんだというような問いがあって、一方でその逆方向から、生物的なこの分子がどうしてこういう性質を持つんだ、どういう役目をするんだという問いがあって、いつも悩むところはあるんです。
三輪:はい、どうもありがとうございます。では、長谷先生。
長谷:はい。私はさきほど言ったように植物が専門です。もちろん理科の好きな子どもがアリを捕まえてみたりとかいうことは一通りやっていますが、考えてみれば、植物マニアだったとか、植物を育てるのが得意だったとかいうことは全然ありませんでした。子どもの頃は、どちらかというとエンジニア系っていうか工学系のことがむしろ好きだったかなという気がしています。生物に行こうと思ったのはいつだったかというのも、もうよく思い出せないわけですけど、きっかけになったのは、ちょうど高校くらいの時にいわゆるセントラルドグマとか分子生物学というものができて、そういう解説書がいろいろ出ていたことだと思います。当時はこれを生化学と言っていたのですが、これは面白いと思って、大学では生物か化学か、まあそのあたりを勉強したいなと思いました。僕は東大の理科Ⅱ類というところに入学しました。理科Ⅱ類に入っても、東大の場合はまだ学部が決まらないんです。医学でも研究でやって行こうという人はそういうところへ行くし、農学部に行ってもいいし、薬学部に行ってもいい。ところが、こことはちょっと様子が違って、いい成績を取らないと理学部にはなかなか行きにくいというような事情がありました。その中で、やっぱり数学はあまりできそうもないぞ、みたいなことも思ったりしながら普通に勉強していました。僕は一応理学部に行きたかったので理学部に出したんだけど、もし点数が足りなかったら、僕はきっと農学部の農業機械というところに行って、今はトラクターとかを作っていたはずです。幸か不幸か生化学科に無事行けたんですが、そこでようやく植物を選びました。ひとつは、みなさんがおっしゃっているように、その後大学院で弟子入りすることになる古谷雅樹先生という人の講義が非常に面白かったということがあります。その先生はアメリカ帰りの人で、帰ってからだいぶ年は経っていたのですが、かなりアメリカナイズされたところがありました。それともうひとつ、けっこうあるケースなんですが、血を見るのが嫌だったので動物は嫌だな、と思っていました。そうなると、あとは微生物か植物ということになります。微生物はちょっと単純すぎて面白くなさそうだと思って、植物を選びました。そのぐらいで大学院に入って、後はそのままずっとやって今に至っているという感じです。
三輪:なるほど。そしたら今度は、趣向を変えて、相談室の山本さんの方から皆さんにテーマを出していただこうかと思います。よろしくお願いします。